無線通信とは、ケーブルを使わず電波でデータをやり取りする技術です。Wi-FiやBluetooth、LPWAなどの多様な通信規格があり、用途や特徴を理解することで適した通信方式を選ぶことができます。そこで本記事では、無線通信規格の種類や用途、特徴について詳しく解説します。
無線通信規格の種類と主な用途

無線通信規格には、消費電力や通信距離、速度などが異なるさまざまな種類があります。スマートフォンや家電に使われる「Wi-Fi」やIoT機器に使われる「LPWA」など、それぞれに適した用途があります。ここでは、代表的な無線通信規格を「電力消費」と「通信距離」の観点から4つに分類して解説します。
高消費電力・近距離(Wi-Fi・UWB)
Wi-FiやUWBは、消費電力が高いですが、高速で大量のデータ通信が可能な近距離通信方式です。家庭・オフィス・工場などにおける高速通信や位置検知などに適しています。
Wi-Fi(Wireless Fidelity)は、最大9.6Gbpsの通信速度を実現し、動画やデータ転送など高負荷の通信に強いです。特にWi-Fi 6やWi-Fi 6Eなどの新規格では、複数の機器を同時に接続しても通信が安定します。
UWB(Ultra Wide Band)は、広い帯域を利用するため、数cm単位の高精度な測位が可能で、スマートキーや屋内測位などに使われています。
例えば、スマートフォンの位置検出機能やワイヤレスイヤホンの接続などは、高消費電力・近距離通信の代表的な活用例です。高速で安定した通信を求める環境では、Wi-FiやUWBが欠かせない通信方式になります。
高消費電力・遠距離(LTE・5G)
LTEや5Gは、消費電力が高いですが、広範囲で高速通信を可能にする携帯電話ネットワークの代表的な通信規格です。スマートフォンや自動運転、遠隔医療など、広域でのリアルタイム通信に適しています。
LTE(Long-Term Evolution)は、数十Mbps〜数百Mbpsの通信速度を持ち、全国的なカバレッジを提供しています。多くの通信事業者が採用しており、都市部だけでなく地方や山間部でも安定した通信が可能です。
5G(第5世代通信)はさらに通信速度が向上し、理論値で最大20Gbps、遅延は1ミリ秒程度にまで短縮されています。映像配信やクラウド処理、IoT連携など、多様なデバイスを同時に接続できるようになりました。
例えば、自動運転技術には5Gによる低遅延通信が活用され、リアルタイムで周囲の車や信号などの情報を取得します。高速性・信頼性・広域性が求められる環境では、LTEや5Gが適した通信方式です。
低消費電力・近距離(Bluetooth・ZigBee・Thread・NFC)
BluetoothやZigBee、Thread、NFCなどは、消費電力は低いですが、短距離の通信に特化した無線規格です。
Bluetoothは、近距離で機器同士をワイヤレス接続するための無線通信規格です。スマートフォンやワイヤレスイヤホン、スマートウォッチなどに使われています。
ZigBeeは、スマートホームや産業用IoT向けに設計された無線通信規格です。温度センサーやスマート照明などに使用されています。
Threadは、IPv6ベースの通信が可能で、IoT機器の相互接続性が高い通信規格です。スマートホーム機器のネットワーク構築に採用されています。
NFC(Near Field Communication)は、数cmの範囲で非接触通信を行える通信規格です。交通系ICカードやスマートフォン決済などに利用されています。
電池駆動の小型機器でも長時間利用できるため、日常生活で身近なデバイスの小規模通信に適しています。
低消費電力・遠距離(LPWAのLTE-M・NB-IoT・ELTRES・LoRaWAN・Sigfox・ZETA)
LPWA(Low Power Wide Area)は、IoT向けに開発された低消費電力・長距離の無線通信方式です。セルラー型のLTE-MやNB-IoT、非セルラー型のELTRES・LoRaWAN・Sigfox・ZETAなどがあり、電池で長期間動作し、数km〜数十kmの通信に適しています。通信速度を抑える代わりに消費電力を極限まで減らし、数年単位で電池交換が不要になるからです。
- LTE-M:LTEをIoT向けに改良し、移動体にも対応するセルラー型のLPWA
- NB-IoT:固定型IoT機器向けで、超省電力・低速のセルラー型のLPWA
- ELTRES:ソニーが開発し、移動体に対応する非セルラー型のLPWA
- LoRaWAN:長距離通信が得意で、双方向通信に対応する非セルラー型のLPWA
- Sigfox:超省電力で、海外で普及する非セルラー型のLPWA
- ZETA:産業IoT向けで、独自のメッシュ構造を持つ非セルラー型のLPWA
例えば、工場や農場でのセンサー監視、スマートメーター、位置追跡デバイス、インフラ監視などにLPWAが活用されています。LPWAについては次の記事に詳しくまとめてありますので、併せてご覧ください。
無線通信規格の比較表
無線通信規格によっては、消費電力・通信距離・通信速度・コスト・用途などが異なります。ここでは、無線通信規格を表にまとめて比較してみました。
| 通信規格 | 消費電力 | 通信距離 | 通信速度 | モジュールコスト | 主な用途 |
| Wi-Fi | 高い | 50m〜100m程度 | 高速 (数百Mbps〜9.6Gbps) | 中程度 | 家庭・オフィスなどの インターネット接続 |
| UWB | 高い | 数m~数十m程度 | 中速 (数百Mbps程度) | 高い | 高精度測位 デバイス連携 など |
| LTE | 高い | 数百m〜数十km程度 | 高速 (数十〜数百Mbps程度) | 高い | スマートフォン 車載通信 など |
| 5G | 高い | 数百m~数km程度 | 超高速 (最大20Gbps) | 高い | 自動運転 遠隔医療 映像配信 など |
| Bluetooth | 低い | 数m〜10m程度 | 中速 (最大24Mbps) | 低い | イヤホン スマートウォッチなど |
| ZigBee | 低い | 数m〜100m程度 | 低速 (数百kbps程度) | 低い | スマートホーム 照明制御 など |
| Thread | 低い | 数m〜200m程度 | 低速 (数百kbps程度) | 低い | IoT家電 センサー制御 など |
| NFC | 低い | 数cm程度 | 低速 (数百kbps程度) | 低い | 非接触決済 交通系ICカード など |
| LTE-M | 低い | 数km〜10km程度 | 中速 (最大1Mbps) | 中程度 | IoT機器 遠隔監視 など |
| NB-IoT | 非常に低い | 数km〜数十km程度 | 低速 (数十〜数百kbps) | 中程度 | インフラ監視 スマートシティ など |
| ELTRES | 低い | 数km〜100km程度 | 超低速 (数十bps程度) | 中程度 | 位置情報 トラッキング など |
| LoRaWAN | 非常に低い | 数km〜10km程度 | 低速 (数百bps~数十kbps) | 中程度 | スマートメーター 環境監視 など |
| Sigfox | 非常に低い | 数km〜50km程度 | 低速 (数百bps〜数kbps) | 中程度 | センサー通信 物流追跡 など |
| ZETA | 非常に低い | 数km〜10km | 低速 (数百bps〜数kbps) | 中程度 | 産業IoT スマートビル など |
上記の数値や分類は、あくまで一般的な目安です。用途や環境などによって、無線通信の距離や速度は変動します。
無線通信規格の種類に関するよくある質問

無線通信規格について検討する際は、有線との違いやIoTに適した種類、周波数帯による変化などに関する疑問を抱くものです。ここでは、無線通信規格の種類に関するよくある質問を集めましたので、一般的な回答をご紹介します。
有線から無線に変えるメリット・デメリットは何ですか?
有線通信から無線通信に切り替えるメリットは、配線不要で自由度が高くなることです。LANケーブルや光ケーブルなどを物理的に接続しなくても通信できるため、設置の手間が減り、機器の移動や拡張も容易になります。特にオフィスや工場では、レイアウト変更のたびに配線工事を行う必要がなくなるため、コスト削減にもつながるのです。
一方で、通信の安定性が環境に左右される点は無線通信のデメリットです。電波干渉や遮蔽物の影響を受けると、通信速度が低下します。また、セキュリティ面では、不正アクセスを防ぐために暗号化や認証管理の技術が必要です。
無線通信は利便性を大きく高める一方で、運用時の電波環境やセキュリティ対策を考慮することが大切です。
IoTに適した無線通信規格はどれですか?
IoTに適した無線通信規格は、消費電力・通信距離・通信速度・モジュールコスト・用途などによって異なります。
- 高消費電力・近距離(Wi-Fi・UWB):高速通信が必要なカメラや制御装置など
- 高消費電力・遠距離(LTE・5G):大量データを扱う移動体や車載機器など
- 低消費電力・近距離(Bluetooth・ZigBeeなど):ウェアラブル機器やスマート家電など
- 低消費電力・遠距離(LPWA):センサー監視やスマートシティなど
用途に応じて、消費電力と通信速度のバランスを取ることが重要です。
周波数帯によって無線通信はどのように変わりますか?
周波数帯が変わると、通信の「距離」「速度」「安定性」が大きく変化します。
| 周波数帯の種類 | 無線通信規格 | メリット | デメリット |
| 920MHz帯 | ELTRES LoRaWAN Sigfox ZETA | 障害物に強く、通信距離が長い (数km〜10km) 省電力通信が可能 (LPWA向き) IoT専用帯域として整備されている | 国や地域によって使用制限が異なる 低速である(kbpsレベル) データ量の多い通信には向かない |
| 2.4GHz帯 | Wi-Fi Bluetooth ZigBee Thread | 世界共通で利用できる 高速で、データ量の多い通信に向く 機器やチップが豊富で、モジュールコストが安い | 電子レンジや他機器との干渉が起きやすい 直進性が強く、壁などの障害物に弱い 通信距離が短くなりやすい |
電波は周波数が低いほど波長が長くなり、障害物を回り込みやすく、遠くまで届きやすい性質を持ちます。一方で、高い周波数の電波は直進性が強く、高速通信が可能ですが、壁や建物を通りにくく通信距離が短くなるのです。
用途に適した無線通信規格を選ぼう!
無線通信規格には多くの種類があり、通信の「距離」「速度」「消費電力」のバランスが異なります。利用する環境や用途などに合わせて、適した無線通信規格を選ぶことが大切です。
三信電気株式会社では、無線通信機器の導入や運用をご支援しています。
お客様の課題を解決できる機種の選定や導入の方法をご提案いたしますので、ぜひお気軽にご相談ください。








